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仙台高等裁判所 平成4年(ネ)78号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一、控訴人の申立の要旨は、「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対し、四八七万六七一一円及び内金三八七万六七一一円に対する昭和六〇年三月二二日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。」との判決を求めるものである。

第二、本件事案の概要は、競売手続において債務者であった控訴人が、配当異議の申出、訴の提起及びその証明など所定の配当異議手続をとったとして、それにもかかわらず執行裁判所がそのまま誤った配当表に従って配当した結果損害を受けたとの理由により、国に対し、国家賠償法一条に基づき、誤った配当額三八七万六七一一円及びこれに対する配当の日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金並びに慰藉料一〇〇万円の支払を求める内容である。

争いのない事実と争点は、原判決二枚目表一行目から同丁裏一〇行目までに記載してあるとおりである。但し、右記載から明らかなとおり、本件配当異議の訴の提起日は証拠によって認定した昭和六〇年三月一九日である。

なお、控訴人は、原判決記載の争点1に関し、当審で以下の主張を付加した。すなわち、控訴人は、昭和六〇年三月一八日仙台地方裁判所受付に、配当異議の訴状、受理証明額及び訴提起の届出書を提出し、右文書にそれぞれ同日付の受付印の押捺をして貰い、同月二〇日受理証明書の交付を受けるとともに受書の日付を同月一九日から同月二〇日に書き替え、次にその場で書記官佐藤某に対し右訴提起の届出書に受理証明書を添付して執行裁判所に提出してくれるよう依頼したところ、同書記官は、これが民事執行法九〇条六項の証明であることを了解したうえで右依頼を承諾した。その際、控訴人は、切手が不足していると指摘されたため、同月二二日不足の切手を持って佐藤書記官を訪ねたところ、佐藤書記官から「熊谷書記官から勝手に書類を受けとるのはおかしいと注意された。書類は同書記官に渡した。」旨告げられたので、熊谷書記官に会うと、同書記官は「まだ受付印を押していない。」というので、控訴人は「何をいっているか、今手に持っているではないか」と言い返した。そのようなやりとりの後、控訴人は同書記官から同月二二日の日付で提出するよう求められた。控訴人が「配当はまだしていないのか、間に合うのか」と問うと、「配当はまだしていない」と答えたので、控訴人はたまたま所持していた「控」を「正」とし、一九日付を二二日付に直して熊谷書記官に提出した。

第三、争点に対する判断

次のとおり付加、訂正するほか、原判決の同標目欄に記載のとおりである。

一、原判決三枚目表七行目末尾の「設けていない」と一〇行目の「けれども」を接続させ、その間の説示を削除する。

二、同丁裏三行目冒頭の「ないので」から四行目の「足りず、」までを、「ないことに鑑みて訴を提起したことの証明をするように規定した趣旨からすれば、それは、それのみによって直ちに訴が提起されたことを確認しうるに足りる資料、つまり公文書その他これに類する書面による明確な「証明」でなければならないと解すべきである。控訴人主張の如き訴提起の届出書が提出されただけでは、更にその真偽を調査する必要があり、かくては右にいう「証明」にならないからである。したがって、前記条項にいう証明としては、」に改める。

三、原判決四枚目表五行目の「仮に」から八行目の「そもそも」までを削除する。

四、争点1に関して、当審において控訴人は前記のとおり具体的な事実主張を付加したので判断するに、当事者間に争いのない事実並びに甲第四号証、乙第四ないし六号証、第一〇号証の一、二、原審及び当審における控訴人本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、右に関する事実関係は、次のとおりと認められる。

控訴人は、昭和六〇年三月一九日午後六時過ぎ仙台地方裁判所に配当異議の訴状(乙第四号証)、受理証明願(乙第五号証)及び訴提起の届出書(乙第六号証)を提出し、同日午後六時四五分に当直の担当者に受付けられた(なお、控訴人は原審及び当審において同月一八日に提出した旨供述しているが、右配当異議の訴状にはいったん押印された同月一八日一八時四五分の受付印の記載に×が記され、その横に誤捺印と記載されており、またそれぞれ三通の書類が同時に提出されていることからすると、右供述は採用できず、他に右認定を覆す証拠はない。)。そして、控訴人は、同月二〇日受理証明書の交付を受けた後、民事訟廷事務室において、係のものから、どの事件について訴提起の届出書を提出するのかとの質問を受けた際、当時係属していた仙台地方裁判所昭和五七年(ワ)第一五八一号債務不存在確認請求事件(本件配当異議事件の被告に対し同じ債権につき不存在確認を求める訴訟)に提出する旨言明し、訴提起の届出書の右側上部欄外に「昭和五七年(ワ)第一五八一号」と自ら記載し、かつ受理証明書が添付されていないことを指摘されて右届出書に記載しておいた「証明書を添付して」との文言を抹消して押印したが、受理証明書は提出しなかった。控訴人は、同月二二日不動産執行係の熊谷書記官に対し、同月二〇日に訴提起の届出書を提出していると述べたが、提出されていないと言われたので、あらためて所持していた訴提起の届出書(乙第一〇号証の一)と受理証明書(乙第一〇号証の二)を提出することにしたが、その際同書記官から指示されたとおり訴提起の届出書(乙第一〇号証の一)中の「控」の記載を抹消し、年月日の「昭和六〇年三月一九日」との記載を「昭和六〇年三月二二日」と訂正し、右訂正後の各書類を提出し、これが受理された。その折、控訴人は熊谷書記官に対し、「配当はまだしていないのか、間に合うのか」と確認しようとしたが、同人から「配当はまだしていないが、間に合うかどうかは裁判官が決めることである。」と言われ、却下される虞れがあったため、その場で仙台地方裁判所長宛に「受理証明書を添付した届出書を三月二〇日に既に提出受理されているのに経過後の三月二二日に提出すべきものとされ配当を実行するとの書記官の話であるが、配当はできないものと考える。」旨の上申書を作成して郵送し、翌二三日到達した。

右事実によれば、控訴人が執行裁判所に対して本件配当異議の訴についての訴状受理証明書を提出したのは、昭和六〇年三月二二日であって、本件配当期日から一週間以内である同月二〇日までの間には、配当異議の訴提起を証明するに足りる証拠を提出していないのは明らかである。なお、控訴人は原審及び当審において受理証明書を同月二〇日に提出した旨供述し、同人作成の上申書(甲第四号証)にも同様の記載があるが、前記各証拠及び受理証明書が一通しかなく、それが同月二二日に提出されていることがこれと一体となって提出された訴提起の届出書(乙第一〇号証の一)の受付印から明らかであることに照し、採用できず、他にこれを左右するに足りる証拠はない。

してみると、当審における控訴人の右主張は理由がなく、採用できない。

第四、結論

よって、原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

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